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全館空調について徹底解説―メリット・デメリットまとめ

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こんばんは。家の設計をしております、建築士の「いえもん」と申します。

ここ数年で全館空調が採用されている住宅が徐々に増えてきていると感じます。

快適な居住環境が実現できるのは大きな利点ですが、コストも結構大きいので、メリット・デメリットをしっかり把握したうえで、採用に値するかどうかを慎重に検討したいですね。

この記事では、そんな全館空調のメリット・デメリットについて、また、そもそも全館空調って何?というところからまとめていこうと思います。全館空調の採用をご検討の方はぜひご参照していただければうれしいです。

全館空調とは

 

まず、全館空調とは、家の中のすべての部分を24時間365日常に冷暖房して快適な状態に保つシステムのことです。居室に限らず、廊下やトイレなども含めてすべてのエリアにおいて空調されるという状態です。商業施設、公共施設、オフィスビルなどは廊下でもトイレでもどこにいても暑かったり寒かったりということはあまりなく、常に快適な温熱環境が整っていますよね。あの感じが家の中でも実現されるようなイメージです。もちろん換気も常に行われるので、新鮮で快適な温度の環境が常に維持されるということです。 

では、次ににメリットとデメリットをまとめていきます。 

全館空調のメリット

汚染物質の除去 

基本的に全館空調の場合は、窓を閉め切った状態でも24時間365日常にきれいな空気と一定の温度を保つことが前提になるので、おのずと汚れた外気から家の中を守ることができます。例えば花粉が家の中に流入してくるのも抑制することができるので、花粉症の方にとっては非常にありがたいですね。幹線道路沿いなどで排気ガスが多い地域の場合にも有効です。その他にも、近年では黄砂やPM2.5も飛んできたりもするので、そのような汚染物質から居住空間を守ることができるというメリットが挙げられます。なお、全館空調の製品によって、どこまで細かい汚染物質を除去できるかについては差があるので要確認です。 

快適性・ヒートショック防止 

家の中のどこのエリアも適切な温度に保たれているので、快適な温熱環境が実現するということは言うまでもありません。
ペットや小さいお子様がいる場合、家の中の温度管理に気をつかう方も多いと思いますが、全館空調であればそういった心配が減りそうですね。その他にも、冬の朝の寝起きがスムーズになったり、ドアの開けっ放しを気にしなくて済むなど、いろいろな面で居住性が高まりそうです。
また、家の中の温度ムラが無くなることによって、特にお年寄りの方にとっては心配なヒートショックの予防にもつながると言えます。ヒートショックとは、冬場の寒い時のお風呂上りなどに、浴室と脱衣室の温度差による急激な血圧変化で心筋梗塞脳梗塞などの症状が生じる現象です。特に高齢の方でヒートショックにより死亡するケースも多いので心配です。

家の中の快適さの向上だけでなく、健康面や体への負担軽減という面でもメリットは大きいと言えます。 

開放的な間取り

家の中のすべてのエリアが同じ快適な温度に保たれるということによって、間取りの自由度につながるというメリットもあります。具体的には、間仕切壁を無くして大きく開放的な空間を実現しやすかったりします。構造的な制約さえクリアできれば大きな空間を生み出すことができると言えます。 

ホコリやニオイ

空気清浄機能によって、家の中のホコリが減って掃除の手間が軽減されるという声もあります。ホコリだけではなく、家の中のダニやカビ、ハウスダストなども吸い取ってくれるので、健康面でもメリットが大きいと言えます。

ペットを飼われているご家庭では、動物臭が無くなったという声もあります。家中に常に空調が行き届いているので、臭いがかなり軽減されるようです。 

インテリアをすっきり

壁掛けエアコンの設置が無くなり、基本的には吹き出し口を天井面に設ける形になるので、意匠性の高い空間を創出しやすく、特にインテリアにこだわりたい場合などにはデザイン面でのメリットも大きいです。また、室外機台数も1台で済むので、外構計画が検討しやすくなります。 

セキュリティ

これは二次的なメリットのようなものですが、窓を開けなくても済むということは、セキュリティ面での不安を低減できるというとも考えることができます。

侵入者は家の裏手の水回りにある小さな窓を狙うことが多いです。

換気のためにいつの間にか開けっ放しになっていることが多く、裏手であることから侵入者にとっては好都合な場所です。

全館空調の場合は換気のために窓を開ける必要がなくなるので、こういった閉め忘れによる空き巣被害を抑制できそうです。 

デメリット

メリットがたくさんあって魅力的ですが、次にデメリットをまとめていきたいと思います。 

乾燥

換気によって外の乾燥した空気を取り入れて家全体を空調するので、冬場の暖房時は乾燥します。のどが弱い方などは特に注意が必要です。また、基本的に健康面へのダメージだけではなく、乾燥によって内装のクロス切れが生じるなど、部材の乾燥収縮による損傷が生じる恐れもあります。冬場はポータブル加湿器の併用が必要と考えた方が良さそうです。このデメリットの裏返しになりますが、冬場の乾燥を利用して室内干しが効果的に行えるというメリットも実はあったりします。 

機械室

機械室が必要となるので、そのためのスペースを見込んでおく必要があります。ただし、全館空調による居住性の向上によって、冬用布団・扇風機・ストーブのような補助暖房器具など、いろいろと不要になってくるものがありそうです。それらの収納スペースがなくなると思えば、面積的に相殺できそうという考え方もできそうです。

また、機械室は音の発生源にもなるので、寝室から離した間取りにするなどの配慮が必要です。 

故障時の対応

全館空調は1つの空調機によるシステムになるので、万が一故障が生じた場合は、家中の空調がダウンしてしまうことになります。もしこれがたまたま真夏や真冬の厳しい日だと想像すると恐ろしいです。定期点検や日ごろのメンテナンスを適切に行う、緊急故障時の対応やメーカー連絡先をクリアにしておくなどの心掛けが必要です。 

ニオイの循環

家全体を空気が循環することになるので、ニオイなども循環して広まる可能性があります。特にニオイの発生しやすいキッチンが要注意です。調理時などはレンジフードの使用を徹底するようにしたいです。煙草についても同様です。喫煙は換気扇の近くか、できれば外で吸う方が無難です。 

個別管理ができない

全館一括管理によって家全体が等しい温熱環境になることは、逆に部屋ごとの温度調節ができないというデメリットも生じてきます。ご家族の中に極度の暑がりの方、または寒がりの方がいたり、体感温度がひとりひとりばらつきが大きいなどの場合にストレスを感じることになるかもしれません。例えば衣類を1枚調節する程度で済めばよいのですが、それでは補いきれないほどの体感温度の差がご家族の中でありそうな場合は採用を慎重に判断した方が良さそうです。 

コスト

快適な居住空間が魅力的な全館空調ですが、それなりに初期費用はかかってくるという点は避けられません。以前よりは徐々にコストが下がってきている傾向にはありますが、やはり200~300万円程度はイニシャルで必要になってくるという覚悟で検討が必要になりそうです。メンテナンス費用が必要になったり、月々の空調費も一般的なエアコンに比べて上がってくるので、設計段階で慎重にシュミレーションした上で採用されることをお勧めします。